精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築及び地域共生社会の実現に向けた精神保健福祉士の役割の明確化と養成・人材育成の在り方等に関する調査

厚生労働省 平成30年度障害者総合福祉推進事業


はじめに

 日本精神保健福祉士協会(以下「本協会」)の前身である日本精神医学ソーシャルワーカー(Psychiatric Social Worker)協会は、1964(昭和 39)年の設立より長きにわたり、自らの国家資格創設に向けた活動をしてきました。精神医学ソーシャルワーカーは、精神障害のある人びとが法的には福祉の対象と規定されていなかった時代から、その人権擁護と社会的復権、福祉の向上を目指して、当事者一人ひとりの自己決定を尊重したかかわりを展開し、また生活者の視点に立って環境との相互作用の理解のうえにはたらきかけるとともに、政策提言や資源創出および普及啓発の諸活動を重ねてきました。国家資格制度化を求めたのは、こうしたソーシャルワーク実践の質を上げるためであり、また当事者・家族及び連携する他職種や国民への責任を果たし社会的認知を期待したためでもありました。

 精神保健福祉士法(1997(平成 9)年)制定後も通底する理念に変わりはありません。さらに、資格法成立後の本協会内には「精神保健福祉士は、ソーシャルワークのうち国家が規定した職務を担う役割であり、ソーシャルワーカーとしては法的規定を超えて、より広範に役割を果たさなければならない」という考え方もあり、おりしも日本における精神疾患の患者数の増や、社会情勢に伴う多様なメンタルヘルス課題の蔓延により精神保健福祉分野でのソーシャルワークの需要が高まったこともあって、養成課程での教育内容や資格法に規定された範囲に留まらないソーシャルワークを展開する者が増えていきました。このことは本協会の所属機関別構成員数にも明らかですし、精神保健福祉士が精神科医療や障害者福祉以外の多様な領域で採用されている事実をみてもわかります。

 一方、精神科医の呉秀三が「我が国十何万の精神病者は実に此の病を受けたるの不幸のほかに、この邦に生れたるの不幸を重ぬるものと云うべし」 1 と述べた時代からおよそ 100 年を経てなお、精神障害者の社会的復権が為し得たかと問われれば、首肯することは難しいでしょう。また、2016(平成 28)年7 月に発生した相模原障害者施設殺傷事件に象徴されるような、病むことや重い障害を持つことの否定とも受け取れる社会の風潮に対峙する専門職として、人びとが精神疾患・障害やメンタルヘルス課題を、ある意味で安心して背負うことのできる社会、地域で誰もが共生できる社会を作らなければならないことも自覚しています。

 本協会は、1 万人を超える構成員を擁して諸活動を展開しており、2008(平成 20)年度からは生涯研修制度による現任者の研鑽の支援や、2012(平成 24)年度より施行されている精神保健福祉士養成カリキュラムにおける実習指導者講習会プログラムを開発し、法施行前の 2010(平成 22)年より講習会を先行開催してきました。こうした蓄積のもとに、このたび関係諸機関や団体のご協力を得て、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課が所管する平成 30 年度障害者福祉総合推進事業により、自らの役割の再考と養成・人材育成の在り方に関する調査研究を実施しました。その中心を担ったのは本協会の「精神保健福祉士の養成の在り方検討委員会」の委員です。全員が精神保健福祉現場でのソーシャルワーク実践の経験を有し、現在は精神保健福祉士等の養成教育に携わる者であり、本報告書が、2018(平成 30)年 12 月より厚生労働省で行われている「精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会」における協議に資することを願っています。

 当初、1 万人の確保が目指された精神保健福祉士は、それをはるかに超えて養成され、2019(平成31)年 2 月末現在の登録者数は 82,556 人を数えます。精神医学ソーシャルワーカーからスタートした精神保健福祉士が、精神保健福祉領域のソーシャルワーカーとしてさらに活躍しその責務を果たすことは、精神疾患や障害を特別視せず誰にとってもわが事として捉えられる社会にすること、そこで生活する誰もがこころの健康を維持向上させ、あるいは病いや障害を得てなお自分らしく暮らすことを支えるものであると信じます。そのために本協会は今後も養成教育と卒後の現任者教育の連接を支える諸活動に励んで参ります。

 さいごに、本調査にご協力くださったすべての方に心より感謝申しあげます。

2019年3月
公益社団法人 日本精神保健福祉士協会
副会長 田村 綾子


■報告書

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表紙
目次

表紙〜もくじ 2.5MB

第1部 事業目的等

1.本事業の背景
2.本事業の目的
3.本事業の実施内容

P1〜10 1MB

第2部 量的調査

1.現任精神保健福祉士を対象とした調査
2.精神保健福祉士養成課程のある大学・養成施設を対象とした調査

P11〜128 3.3MB

第3部 質的調査

1.大学の教員対象
2.精神保健福祉士養成施設対象
3.実習指導者を対象としたグループインタビュー
4.10 年以上の現場実践の経験を有する精神保健福祉士を対象としたグループインタビュー
5.連携・協働関係にある専門職を対象としたグループインタビュー

P129〜208 1.9MB

第4部 精神保健福祉士に関する調査研究等に係るレビューの結果と考察

1.精神保健福祉士に関する調査研究等に係るレビューの概要
2.研究結果

P209〜216 0.8MB

資料編

1. 量的調査 調査票

P217〜奥付 0.7MB

【追加資料の掲載について】

本調査事業においては、精神保健福祉士養成課程及び養成施設の教員を対象とした量的調査と現任の精神保健福祉士を対象とした量的調査を実施しましたが、自由記述部分につきましては回答件数が大変多く、報告書への掲載が間に合いませんでした。貴重なご意見をお寄せいただいた方々には大変申し訳ありませんでした。遅くなりましたが、自由記述部分の取りまとめが完了しましたので、追加資料として掲載いたします。(2019年7月9日)

内容 PDF サイズ
量的調査(教員対象)における自由記述の内容 全16頁 0.7MB
量的調査(精神保健福祉士対象)における自由記述の内容 全87頁 1.2MB

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