機関誌「精神保健福祉」

通巻93号 Vol.44 No.1(2013年3月25日発行)


目次

巻頭言  心星ひとつ、谷中さん/柏木 一惠

特集 当事者による支援活動と精神保健福祉士

〔総説〕
当事者による支援活動(ピアサポート)の現状と課題 .PSWとの協働を考える/橋本 達志
当事者活動へのかかわり.「倫理」から「受動性の自覚」へ/稲沢 公一

〔各論〕
精神障害当事者会「ポプラの会」と共に歩んで.それぞれの立場からのかかわり/太田 廣美・大池ひろ子・土井まゆみ・夏目 宏明
「ピアとして・ひとりの人間として」尊重し合える関係を大切にした支援/大堀 尚美
すみれ会の助け合い/ 宮岸 真澄

〔実践報告〕
地域移行ピアサポーターの活動から/児玉 洋子
クラブハウスにおけるメンバーとスタッフの関係性/河瀬 弘之・加藤 大輔
WRAPに関する活動を通して考える“ピア”について/長岡 千裕
山陰における嗜癖問題に対するピア・行政・PSWの協働/田中  晋・森脇 英人
がん体験者の自助グループ“がんサロン”とのかかわりと 援助者自身が受けた影響について/原 敬

〔私とピア〕
印象に残る当事者との出会い

誌上スーパービジョン
本人の気持ちに寄り添うことの難しさ.迷いながらかかわり続けている事例を通して─スーパーバイザー/柏木昭

トピックス
新大綱は必読! 自殺総合対策大綱の見直し/大塚 淳子

研究ノート
統合失調症のセルフヘルプグループの展開とメンバーの認識変化 機関内グループとSA(SchizophrenicsAnonymous)の経験から/橋本 直子

情報ファイル
第20回日本精神障害者リハビリテーション学会=山田  敦
「第5回みんなねっと茨城 大会」の開催=.村 裕子
日本福祉教育・ボランティア学習学会 第18回いばらき大会=松本すみ子
家族のこころの病気を子どもに伝える絵本・『ボクのせいかも….お母さんがうつ病になったの.』が刊行されました。=小田 敏雄

リレーエッセイ/東日本大震災、そして新しい命/奥山 美希
連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」
・協会の動き/坪松 真吾、この1冊/小田 敏雄・島田 泰輔
・投稿規定
・協会の行事予定/想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク〜(5)


巻頭言

心星ひとつ、谷中さん

社団法人日本精神保健福祉士協会会長/浅香山病院 柏木  一惠

 谷中さん、彼岸に旅立たれてもう 2カ月が来るのですね。あなたの訃報にどれだけ の人々が混乱し、悲嘆に暮れ、空虚さに耐えがたい思いをしていることでしょう。 もっと語りたかった、もっと教えてもらいたかった、もっと励ましてもらいたかった、もっともっとただそばにいてほしかった・・・。優しい声、温かいまなざし、豊かな知識、どんな人をも包み込む器の大きさに、さてどれだけの人が恋をしたことでしょうか。

 あなたの輝かしい業績の一つひとつは、戦いの連続の中で獲得されたものでしたね。最も大きな敵は日本の精神医療、敵の大将は精神病院だったでしょうか。私が就職して何年目かのこと。日本精神神経学会でシンポジストの谷中さんが「病院には生活がない。人として当たり前の生活は地域の中にしかない!」と強く主張された雄姿 が今も目に焼き付いています。ふだんの穏やかなお人柄からは想像もできない激しさでしたが、実にかっこよく、同じ PSWとして誇らしかったです。

 本協会がY問題の対応をめぐり機能停止状態に陥った時も、火中の栗を拾い、卓抜したリーダーシップで再生の道を切り開いてくださいました。

 いつも先の先を歩いておられましたね。医療の傘から抜け出した地域生活支援の場の創出、当事者主体の生活支援という理念を実践の場で貫かれました。そして、やど かりの里が作り上げた憩いの場や市民交流の場、就労支援の場などが、後に国の施策 として援護寮や福祉工場、地域生活支援センターなどとして制度化されていきまし た。でも、形は似せても仏つくって魂入れずの如き現状に、実は忸怩たる思いをされていたのではないでしょうか?

 21世紀に入ってからは教育や研修に力を注ぎ、日本の精神医療福祉の改革という志を一つにする仲間の輪を広げ、多くの後進を育てられました。その人たちにとっての谷中さんは、もちろん私も含めてですが、道に迷った旅人や大海原で途方にくれる船人の道標である心星(北極星)のような存在でした。命を懸けて精神障害のある人たちの地域での当たり前の暮らしの実現に奔走された人生でしたね。でもやはり道半ばという気持ちがぬぐえません。だから谷中さんの志を継ぐ多くの人々にとっては、 いつまでも心星でありつづけることと思います。 これからの私たちの戦いをどうぞ見守っていてください。

特集 当事者による支援活動と精神保健福祉士

 近年、精神障害のある人たち自身による支援活動やリカバリーに向けたプログラムが各地で展開されるようになってきている。ピアサポート、ピアヘルパー、ピアグループなど、「仲間」を示す「ピア」の名称を使った活動を目にすることも増えてきた。今回の特集は、単にピアの活動を精神保健福祉士の視点から見直そうというものではない。ピアの活動に対して専門職としてどのようにかかわりを持っていくかがテーマであり、ピア活動そのものだけでなく、私たち自身がピアに向かう姿勢について再確認していこ うというものである。
 総説では、現場実践者の立場とソーシャルワーク研究の立場から、援助者とピアとの関係性およびピアサポートの実際と課題について論じていただいた。続く各論および実践報告では、ピアとして活動を行ってきた当事者の方やピアとかかわってきた精神保健福祉士の経験を述べていただいた。最後に印象深い当事者あるいはピア活動との出会いについて、10人の精神保健福祉士に寄稿してもらっている。
 ピアの活動を専門職が管理する治療やリハビリテーションの道具としてしまうのではなく、ピアの独立性、主体性を認めつつ、かつ共に精神障害者の支援を行う協力者、仲間となるために、精神保健福祉士はどのような専門性と責任性を確立して行くべきか、そうしたことを考える一助となれば幸いである。

 既に巻頭言でも触れられているが、本特集企画を進めている最中の2012年末、谷中輝雄先生が亡くなられた。谷中先生が日本の精神保健福祉の発展に果たしてこられた役割は多大なものであるが、やどかりの里が活動初期から仲間づくりの重要性や当事者活動の意義を重視していたことからわかるように、ピア活動に関することもその1つであろう。
 谷中先生は、教育研究の現場に移られてからもずっとピアの活動の重要性を説いておられ、海外のピア活動にも深い感心を持たれていた。そして日本でもピアの活動が発展することを強く望んでおられていた。編集担当として、この特集も是非読んでいただきたかったと思う。 慎んでご冥福をお祈りしたい。

(編集委員:江間 由紀夫)


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