巻頭言 死者たちの優しい声〜PSWとしてのこころざし〜/古屋 龍太
特集 変わる養成課程 変わらない思い
〔総説〕
精神保健福祉士の養成課程とソーシャルワーク教育/佐々木敏明
後進に託す“PSW魂”─実践力ある精神保健福祉士の養成にかける実習指導者の思い/田村綾子
〔各論〕
将来私たちの仲間となっていく人に伝えたいこと/林 浩幸
養成機関における「演習教育」と「現場実習」の連続性/荒田 寛
〔実践報告〕
実習受入れの現場から思うこと/金成 透
われわれの根元にあるもの/西川浩司
〔座談会〕
精神保健福祉士をめざす人たちに何を伝えるか─新カリキュラムにおける実習指導を考える/川俣伸枝・佐藤眞子・福井淳夫・渡部裕一・渡辺由美子/司会・荒田 寛
誌上スーパービジョン
デイケアを居場所としていく過程でのかかわりを振り返る──スーパーバイザー/柏木 昭
トピックス
障害者虐待防止における課題と今後の展望/岩崎 香
研究論文
精神障害者の暮らしと障害年金の権利性の保障─精神保健福祉士に対する障害年金についてのアンケート調査を通して/青木 聖久
イタリアの地域精神保健を支える思想と制度/中嶋 裕子
情報ファイル
「リカバリー全国フォーラム2011」報告/四方田清
「日本デイケア学会 第16回年次大会名古屋大会」報告/青山智香
「日本社会福祉学会 第59回秋季大会」報告/向井智之
全国精神保健福祉家族大会(みんなねっと香川大会)/片岡未希
リレーエッセイ
障害者自立支援法と『幻聴妄想かるた』の生まれた場所/新澤克憲
連載
実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」 、協会の動き/坪松 真吾、この1冊/江間由紀夫・鶴 幸一郎
想いをつなぐ〜災害とソーシャルワーク〜
投稿規定、協会の行事予定、2011年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧
死者たちの優しい声〜PSWとしてのこころざし〜
国際委員長/日本社会事業大学大学院 古屋 龍太
今から30年前、僕はまだ学生だった。授業を通して、精神科病院の実情の一端に触れ、ある患者会に顔を出すようになった。患者会には、病院を退院した方々が毎月顔を揃えていた。そこで、僕はさまざまな病いと入院体験談を聞き、この国になんという世界があるのかと驚愕した。何かしなければと思った。精神科病院で働こうと決めた。
大学卒業後、たまたま産休代替のPSWを募集している病院があった。結局その後26年間、その病院で勤めることになった。患者会にも、約20年間かかわった。順番に亡くなる方も増え、参加者が少なくなり、患者会はいつのまにかなくなったが、僕の職業人としての原点になった。あの患者さんたちと出会わなければ、僕はPSWにはならなかった。
病院では、さまざまな体験をした。デイケアを皮切りに、いろいろな病棟を兼務で担当した。戦中からある古い病院だった。仲間も少ない中で、消耗することも多く、感性は摩耗し、最初の志はすり切れていった。自分としては精一杯やってきたつもりだが、巨大な病院組織は、なかなか一介のPSWの働きでは変わらなかった。
それでも仕事を続けてこられたのは、やはり患者さんたちの笑顔があったからだ。そして、徐々に増えてきた、同じ志をもつ病院の同僚や地域の仲間たちがいたからだ。その間に、自殺した方をはじめ、送る者も少ない葬式に何回も立ち会ったが、死者もまた、僕に仕事の意味を常に問い質してくれた。
4年前に病院を辞め、専門職大学院に籍を移した。大学では、地域移行支援事業の実情等について共同研究を行っている。「社会的入院の解消は喫緊の課題」としてPSWの国家資格化は果たされたが、状況は大きくは変わっていない。地域で自由に暮らせるはずの人が、今も病院に留め置かれている。僕が30年前に出会った方々と同じように。
志半ばで倒れていった先輩や仲間たち、見送ってきた数多の患者さんたち、死者たちが優しく問う。「志を忘れていないかい?」「ちゃんと仕事しているかい?」「何か変えられたかい?」・・・。
恥多き人生だが、せめてPSWとして、恥ずかしくない仕事はしていきたいと思う。
特集 変わる養成課程 変わらない思い2010(平成22)12月に「精神保健福祉士法」が一部改正され精神保健福祉士の役割に精神障害者の地域生活支援が加わった。そして、カリキュラムの内容も大幅に変更となった。今回の改正によって、より実践力のある知識と技術を持った精神保健福祉士の養成を期待されている。そのため養成教育のあり方や実習等の内容の充実が具体的な課題として提示され、特に実習時間の延長、精神科医療機関での2週間の実習が義務づけられる等の変更がなされた。しかも今後は、実習受入機関の実習指導者は精神保健福祉士実習指導者講習会を受講し修了することが必要となる。 実習は精神保健福祉士を目指す人たちが初めて実践を目にする機会であり、その後の方向性を左右する大きな分岐点となるが、一方では、私たちが日ごろの実践を問い直す貴重な時間でもある。充実した実習とするためには施設側の理解が必要であり、本人の希望や理解度を確認しつつ実習プログラムを策定し関係機関への調整等を綿密に行うことが求められる。また、実習内容は施設によって多くの差異があり、一定の質を確保が求められている。 本特集は、新カリキュラムの課題の検討と実習指導のあり方などについて内容を明らかにするとともに、構成員にその内容について周知するだけでなく、実習指導のあり方について(養成機関と実習機関並びに教員と実習指導者との連携、実習生へのスーパービジョンや、実習のコーディネイトのあり方等)検討を加えることを目標にしつつ、具体的には、今回の新カリキュラムの課題と今後の養成がどうあるべきなのか、カリキュラムが変わったとしても変わらない思いを共有すべく企画した。 (編集委員:福井 淳夫) |