機関誌「精神保健福祉」

通巻77号 Vol.40 No.1(2009年3月25日発行)


巻頭言 地域精神保健福祉活動の豊かな展開を願って/佐藤三四郎

特集 国家資格化10年の歩みとこれからの精神保健福祉士

〔総説〕
精神保健福祉士の専門性を考える/柏木  昭
精神保健福祉士の10年/佐々木敏明

〔座談会〕
精神保健福祉士として今を生きる 井上 大輔・川口真知子・増見 尊行・三井 克幸・南 さやか・吉沢 健治 座長・荒田  寛

〔各論〕
精神科医と精神保健福祉士のダイアローグ―歴史・状況・関係性/浅野 弘毅
精神保健福祉士に望むこと/宮岸 真澄
精神保健福祉士養成教育の現状と課題/藤井 達也
精神保健福祉士の生涯研修制度のねらいと課題/田村 綾子

誌上スーパービジョン
寄り添う支援のあり方 ――スーパーバイザー/柏木  昭

トピックス
刑務所出所者等の社会復帰支援の施策(法務省・厚生労働省共管事業)について/大塚 淳子
内閣府「犯罪被害者支援ハンドブック・モデル案」から―犯罪被害者支援の動向とPSWに求められる役割/大岡 由佳

研究ノート
自殺予防における精神保健福祉士の役割 平野みぎわ/山田素朋子/佐藤 玲子/河西 千秋

情報ファイル
「2008年度全国社会福祉教育セミナー」報告/青木 聖久
「日本精神障害者リハビリテーション学会第16回東京大会」報告/西原 聖恵
「日本子ども虐待防止学会第14回学術集会ひろしま大会」報告/小久保裕美

リレーエッセイ
業務を通じて日々思う―エスポワールメゾンでの奮闘記/角田 祐介

連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」、協会の動き/坪松 真吾、書評/小久保裕美・小田 敏雄・福山 佳之、投稿規定、・GALLERY、協会の行事予定、2009年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧


巻頭言

地域精神保健福祉活動の豊かな展開を願って

東京福祉大学 佐藤三四郎

 本誌前号の巻頭言で、伊東秀幸さんは、「地域や社会を変える取組みを実践し、対象者が生活しやすい状況をつくり出すことができれば、……それはすべての住民が生活しやすい社会であり……そのような社会をつくっていく実践こそ、精神保健福祉士の専門性が生かされる場面であろう」(一部改変)と述べておられる。  医療観察法の話題が続いて恐縮だが、医療観察制度において、対象者の地域社会における処遇は、一般の地域精神保健福祉サービスを利用して行われる。その根拠として、医療観察法施行と同時に「精神保健福祉センター運営要領」ならびに「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」が改正され、それぞれの機関が「保護観察所等関係機関相互の連携により必要な対応を行うことが求められる」とされた。

 筆者は、中島豊爾先生(岡山県精神科医療センター病院長)を主任研究者とする厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「医療観察法による医療提供体制のあり方に関する研究」の分担研究者として、「医療観察法に携わる精神保健福祉士の役割に関する研究」を担当した。多くの研究協力者を得て、社会復帰調整官、精神保健参与員、指定医療機関(入院・通院)および地域精神保健福祉関係機関の5領域における精神保健福祉士業務の実態等を調査した。対象者の社会復帰のゴールとなる地域社会において、地域精神保健福祉活動の中核とされる精神保健福祉センターで精神保健福祉士が配置されているところは約55%にすぎない(2006〔平成18〕年11月現在、回答率100%)。第一線機関である保健所・市町村では、精神保健福祉士の配置促進は望むべくもない。精神障害者社会復帰施設における精神保健福祉士の配置数は、684施設に平均2.3名(2008〔平成20〕年11月現在、回答率40%)であった。障害者自立支援法体制移行の経過措置終了後の状況が気にかかる。

 さて、昨年の夏休みに、門屋充郎さんのご厚意により、実習指導室の三品竜浩さんとともに学生9名を連れて北海道十勝地方の地域精神保健福祉活動を見学した。障害者自立支援法の影響などさまざまな関心をもって参加したが、実際に見たものは遙かにスケールが大きく、帯広市緑ヶ丘公園の400メートルベンチに象徴される、まさに地域づくりそのものといえる活動であった。多様な社会資源の創造とネットワークの形成があったが、中核は、精神保健福祉士を中心としたネットワークであった。

 障害者自立支援法のもとにあって、今後の地域精神保健福祉活動のより豊かな展開のために、地域社会で働く精神保健福祉士が大きく増えることを願ってやまない。


 特集 国家資格化10年の歩みとこれからの精神保健福祉士

 わが国の社会福祉の歴史的経過から考慮すると、「ソーシャルワーク」は一つの重要な節目に立っている。社会福祉士・介護福祉士法が改正され、養成カリキュラムが変更された。一方、精神保健福祉士が誕生して10年が経過し、精神保健福祉士法の見直しの時期になり、その養成カリキュラムの検討がされている。また、精神保健福祉士の周囲では、多くの精神保健福祉士の誕生、精神科医療機関における役割の変化、業務と活動領域の拡大など、予期することができなかった状況も生まれている。

 ソーシャルワークの領域において、EBP(エビデンス・ベイスト・プラクティス)重視の潮流は押し寄せている。そして、ソーシャルワーク実践を、エビデンスに準拠して「科学的」と見なし、「効果的」である実践の基準を表現しようとする傾向がある。当事者の視点に立って、社会福祉サービスの利用者の生活支援の評価を、専門家がともにすることなしに、そのソーシャルワーク実践の意味を語ることは困難である。ソーシャルワーカーの「かかわり」によって、人が生きることの意味とその内容を豊かにし、深化させることの数量化は空疎である。

 この特集では、国家資格化10年を振り返るとともに、現状の精神保健福祉士の活動領域の拡大と、本来の精神保健福祉士の役割と、養成システムの問題等について検討したい。そして、これからの精神保健福祉士の質的な向上や担保とともに、社会的認知の拡大を考慮しつつ、今後の精神保健福祉士の専門性の確認と新しい視点や活動のパラダイムを模索したい。そのことが今後の精神保健福祉士の指針を示していくことになり、日本精神保健福祉士協会員の「元気が出る」「希望が持てる」「夢を抱く」ことに繋がっていく内容にしたいと思って企画された。

(編集委員:荒田  寛)


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