機関誌「精神保健福祉」

通巻133号 Vol.54 No.2(2023年4月25日発行)


目次

[巻頭言]
まずはやってみてからモノを言う/徳山  勝

[特集]
問われる医療保護入院と精神保健福祉士

[総論]
・求められるパラダイムシフト;問われる意識改革と実践/大塚 淳子
・医療保護入院制度;法学者の立場から/柑本 美和

[カレントトピック]
・精神保健福祉法の改正に伴う医療保護入院等の見直し/木太 直人

[医療保護入院と同意]
・医療保護入院と同意/安保 寛明
・医療保護入院廃止に向けての取り組み/山田 悠平
・医療保護入院制度を考える;家族の立場から/岡田久実子
・子どもの立場から医療保護入院制度へ対する思い/小林 鮎奈
・市町村長同意の課題と適切な運用に向けて 波田野隼也

[医療保護と精神医療審査会]
・医療保護と精神医療審査会/木本 達男

[医療現場から見る医療保護入院]
・医療保護入院と診療報酬/澤野 文彦
・医療保護入院と退院後生活環境相談員の役割/浜守 大樹
・医療保護と精神科病院への入院/大塚 直子
・医療保護と高齢入院者/蔭西  操

[研究ノート]
・回復者スタッフの視座による精神保健福祉士との協働;アルコール依存症者が運営する回復施設に着目して/朝比奈寛正

[連載]
託すことば、預かることば 第9回/「石川 到覚(その3)」/谷口 恵子・原 敬・木本 達男・鈴木 篤史・大泉 圭亮
つくる・つなぐ・ひらく第14回 多様な人々と幸福価値を生み出す/高橋 由佳
わたし×精神保健福祉士第16回 支えあう地域が「チーム」になるように/半谷 瑞恵
声第11回 精神保健福祉士への期待 社会に目を向けて;いのちの砦裁判の原告として/佐藤 晃一
BOOKガイド 外山  薫・岡本 秀行・土志田 務・鈴木 篤史
情報クリップ 臨床美術学会第13回大会に参加して/三品 竜浩

協会の動き/坪松 真吾
協会の行事予定
学会一覧
読者の声


巻頭言

まずはやってみてからモノを言う<br>

半田市障がい者相談支援センター 徳山  勝

 時代や社会の変化に伴いさまざまな制度政策の改正が繰り返される。決まったことはまず実施してみることで、メリット・デメリットや課題を確認し改善につなげていく。この当たり前のことが重要であるにもかかわらず、十分にできていないのが現状ではないだろうか。

 2022(令和4)年12月10日「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案」と多数の関連法案が可決・成立した。私たち精神保健福祉士はソーシャルワーカーとして、この法改正を賢く活用して国民の精神保健医療福祉に関する権利擁護や社会変革をするために全力で取り組む必要がある。そのうえでさらに改善すべき制度や法律の改正を繰り返していくことが大切である。
本協会は昨年度に「精神保健医療福祉の将来ビジョン」を掲げ、2040年まで約20年かけてその実現を目指すことになった。その間には何度も法改正があるだろう。私たちは制度施策の活用だけでなく、繰り返される法改正に向けてしたたかに準備しなければならない。

 では、どんな準備が必要か? 本協会がすべき準備とは何か? 例えば、本協会の強みは約1万2千人の構成員がプロのソーシャルワーカーとして活動し、複数の当事者やその家族と接して、その日常生活の実態やさまざまな課題を把握していることである。そう考えると、国民(とくに精神障害者やその家族)に濃淡はあれどかなりの割合で構成員がかかわっているのではないだろうか。入院・入所・地域生活をされている方々に対して、さまざまな立場のソーシャルワーカーがかかわることで見えてくるニーズや課題があるだろう。そこで本協会のSNS(メールマガジン、マイページ、Twitterなど)の活用により、データの集約から現状把握や課題分析を可能にし、本協会にしかできない準備や提言ができるのではないかと考えている。

 このような協会の強みを活かした活動を構成員の皆様と考え取り組んでいきたい。そのことからも皆様にはぜひ本協会のSNSへの登録や活用もお願いしたい。また、一人でも多く構成員という同志を増やしてもらいたい。われわれが描いた20年後の社会を目指して。

問われる医療保護入院と精神保健福祉士

特集にあたって

 本号は精神保健福祉法の改正が進む最中に企画された。国連の障害者権利条約の総括所見が公表され、精神科の強制入院を可能にしている法律の廃止が求められたのは記憶に新しい。2013(平成25)年の精神保健福祉法の改正により医療保護入院の見直しがなされ、保護者制度は廃止されたが、医療保護入院の要件として家族等の同意が規定された。退院後生活環境相談員の選任と医療保護入院者退院支援委員会の開催の義務化など、退院支援に向けた業務が法的に規定されるに至ったのも本協会の構成員の皆様には周知のことと思う。

 改正法は成立し、医療保護入院が廃止されることはなく、精神障害者の権利擁護を謳った法律の中に強制性は残されることとなった。今、この時に「医療保護入院」を特集することに対してはさまざまな意見があがった。医療保護入院に対しては現場の葛藤や家族の負担、入院する当事者などによって多様な意見がある。

 しかし、医療保護入院には自由を制限する強制性が伴うことは明らかであり、当事者の権利擁護をアイデンティティとする精神保健福祉士はそれに対してどう向き合うべきか、われわれ一人ひとりに問われている状況にある。これらの課題意識が機運となり本号は発行された。総論は従来の構成と変わって2本立てとなっており、医療保護入院について法律家の視点と精神保健福祉士の視点の両面から論じられている。各論では当事者、家族、他職種など多様な立場から医療保護入院についての現状・課題が示された。葛藤を抱えながらも決意と覚悟に満ちた執筆者の言葉の一つひとつはタイトルのとおり「問われている実情」を明らかにしている。

 法改正と聞くと制度設計の変更に伴う業務内容の変更に目が行きがちだが、眼前の課題がどのような経過で形成されてきたか知り、今後どのようなストーリーを描くべきか、手に取って考える材料を示すのが本特集の狙いである。本特集には医療保護入院制度の是非を問い、実践現場での現状と課題を批判的に論ずる意図はない。バラエティに富んだ書き手のメッセージが皆様に届き、「社会における強制性」という単純な二元論のみでは語りきれない課題の解消に向けて、クライエントと共に歩む「わたしたち」のあり方を問い直す機会としたい。

(木本 達男・谷口 恵子・田村 洋平)


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