[巻頭言]共に生きる/尾形多佳士
[特集]
・こころのケガに配慮する;トラウマインフォームドケアによる精神保健福祉士の実践
[総論]
・精神保健福祉士と共有したいトラウマインフォームドケアの視点/大岡由佳
[各論]
・トラウマを背景としたクライエントへのソーシャルワーク実践;虐待サバイバーたちへのソーシャルワークから/山本由紀
[実践報告]
・精神科病院におけるトラウマインフォームドケア/山下峻・波野 季・石田祐樹
[座談会]
・精神保健福祉士に求められるトラウマインフォームドなアプローチとは;当事者との対話から考える/中村舞斗・櫻井むぎ・小川るり・柏木一惠・上野陽弘・原敬・大岡由佳
[研究論文]
・スクールソーシャルワーカーの実践自己評価に影響する要因に関する研究;ソーシャルワーク実践と実践上のジレンマとの関連/狩野俊介
[連載]
・託すことば、預かることば 第8回/「石川到覚(その2)」/谷口恵子・原敬・木本達男・鈴木篤史・大泉圭亮
・声 第10回/当事者の仲間が教えてくれたこと;当事者主体の意味/山田悠平
・わたし×精神保健福祉士第15回/わたしが障害福祉から児童福祉に活動を移した理由/桑田久嗣
・『精神保健福祉』総目次/通巻128〜131号
共に生きる
さっぽろ香雪病院 尾形多佳士
「共生」とは何か。地域共生、多文化共生、男女共生、そして民族共生。『広辞苑』によれば、「共生」とは「異種なる生物が生理的、生態的に緊密に結び付きながら一緒に生活している現象のこと」とある。この共生現象のうち、共生者の双方が生活上の利益を受ける共生を「相利共生」、一方のみが利益を受け他方が利益も不利益も受けない共生を「片利共生」、一方が利益を受け他方が不利益を受ける共生を「寄生」という。
翻って、私たちがよく耳にする「共生」のイメージを考えてみる。「共生」という言葉がまとう平和的で利他的な印象は心地よい。しかし、自然界、とりわけ生物学における「共生関係」は、その環境や状況によって相利的にも寄生的にもなり、「共生」という種間関係は「片利共生」や「寄生」を含むものとされている。
当然ながら、私たちが暮らしている社会にも多様な「共生現象」があり、その関係性は決して固定的ではなく、絶えず変化している。それを前提としたうえで、多様な人々が「共生」する社会を実現するために私たちがなすべきことは何だろうか。
それは、「片利共生」や「寄生」ばかりが蔓延し、「共生」ではなく「強制」や「矯正」がはびこる精神医療や福祉を「相利共生」に転化させるためのドラスティックな変化を起こしていくことであり、そのために用いる手法が「ソーシャルワーク」であると思う。
話は少し脱線するが、「アイヌ文化」の復興・創造・発展の拠点として、2020年に北海道白老町(札幌市から車で約90分)に「民族共生象徴空間」、通称「ウポポイ」が誕生した。これは、「国立アイヌ民族博物館」「国立民族共生公園」「慰霊施設」によって構成されたアイヌを象徴するナショナルセンターである。「民族共生」という言葉が放つインパクトが日本人のアイヌ文化再考の一助となるのであれば意義深い。「共生」とは、かくも深遠な用語である。
ちなみに、「ウポポイ」とはアイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味している。世界中のみんなが歌い、踊り、語り合うことができる日々が戻ってくることを願ってやまない。
[特集]こころのケガに配慮する;トラウマインフォームドケアによる精神保健福祉士の実践特集にあたってわたしたち精神保健福祉士は日ごろの実践を内省したときに、クライエントの「トラウマ」にどれだけ気づいているだろうか。トラウマは、特殊な状況下において経験するだけでなく、精神保健福祉士の所属機関や実践によってももたらされる可能性もある。 精神保健福祉士は、クライエントとして出会う人たちに対し受容や共感、自己決定の尊重を通したかかわりを大切にしてきた。そして、そのかかわりのなかで、本人のさまざまな困難さの根源にある体験やつらさを丁寧に理解することが求められてきた。 近年、トラウマインフォームドケア(TIC)が紹介されてきており、本協会でも研修が実施されている。しかし、多くの精神保健福祉士はTICとはどのような実践なのか? 技法なのか? 理論なのか? と理解の途上にあろう。 「ケア」と聞くと、精神保健福祉士は治療者ではないと、疑念をもつ読者もいるかもしれない。しかし、TICは安易な技術論としてとらえるものではなく、精神保健福祉士がよりクライアントを理解し、気づきを得るための態度や姿勢の一つととらえるべきものである。今回の特集では、総論においてTICへの理解を深め、各論および実践報告ではトラウマインフォームドな支援を具体的に理解する機会にしていきたい。 また、座談会での当事者の方たちの語りは、トラウマとなった体験だけでなく、対人援助職に対して「専門職」という笠を着たおごりが存在することをいやおうなく意識させるものである。目の前のクライエントを対象化していないか、クライエントを丁寧に理解してかかわろうという意識や態度をもち続けているか、といったことを常に点検しながら実践することがいかに重要であるかを意識させられる。 読者が今一度これまでの実践を振り返り、クライエントのトラウマへの気づきをもったかかわりの重要性を認識する機会となれば幸いである。 三木 良子 |