［巻頭言］袖振り合うも多生の縁／磯﨑 朱里
［特集］価値と理念を具現化する精神保健福祉士業務指針；ソーシャルワーク実践を可視化する
［総論］
・精神保健福祉士の業務指針；ソーシャルワーク実践の可視化を図る過程における議論と葛藤／古屋 龍太
・詳説：「精神保健福祉士業務指針」の意義と概要／岩本 操
［各論の目的］「精神保健福祉士業務指針 第3版」の内容と実践的活用の意義／赤畑 淳
［各論］
・スーパービジョンにおけるクライエントとのかかわりの再考（新人期）／岡本 亮子・鈴木あおい
・多職種／多機関連携におけるクライエント中心の原則の確認（中堅期）／浅沼 充志・坂入 竜治
・利用者のニーズと組織運営管理との葛藤（ベテラン期）／古市 尚志・鹿内佐和子
［実践報告］
・ 「精神保健福祉士業務指針」の実践的活用法／赤畑 淳
・職場内スーパービジョンにおける業務指針の活用／今西 綾子
・都道府県協会での活用；富山県精神保健福祉士協会が取り組んできたこと／小田 良光
・精神保健福祉士以外に向けての業務指針の活用；ソーシャルワークに取り組むために／原見 美帆
・ソーシャルワーカー養成機関における活用；学内実習のプログラムの活用／坂本智代枝・鈴木 篤史
［実践報告のまとめ］ 「精神保健福祉士業務指針」委員会からのメッセージ／岩本 操
［研究ノート］ 重度精神障害者の就労事例における動機を引き出す支援行動のSCATによる分析／湯沢 由美
［連載］
・つくる・つなぐ・ひらく第11回／「地域で暮らす」を応援したい／古明地さおり
・声 第7回／精神障害がある人と家族が地域で安心して生きるために／岡田久実子
・わたし×精神保健福祉士第12回／私×精神保健福祉士×レジリエンス／田村 三太
・メンタルヘルス見聞録第8回／ニューヨークのブロンクス・ディフェンダーズ訪問記；ホリスティック・ディフェンスにおけるソーシャルワーカーの役割や視点／三木良子・羽毛田幸子
・情報クリップ／「日本精神保健福祉学会第9回学術研究集会について」内野真由美、「第38回日本ソーシャルワーク学会に参加して」／坂本智代枝
・BOOKガイド／渡部 泉・藥澤 一恵
・協会の動き／坪松 真吾
・協会の行事予定
・『精神保健福祉』総目次／通巻124～127号
袖振り合うも多生の縁
メンタルケアステーションyui 磯﨑 朱里
今まで気にも留めなかったものが急に目に留まり気になる、そんな経験はないだろうか。最近の私にとってはこのタイトルのことわざが正にそうだ。これまで特段気になるようなことはなかった。それが急に、何気なく本を読んでいたところ、そこに目が留まった。
半年ほど、私は感情を自制することに苦労していた。公私ともにさまざまな場面で相手の言動に割り切れなさを感じることが続き、ともすれば怒りに飲み込まれそうになる。コロナ禍でなければいろいろと気分転換をしたり、人とのつながりを感じに出かけたりすることで発散できたのかもしれない。一人考え込む日々のなかで突如惹きつけられた「袖振り合うも多生の縁」。改めて調べ直してみると、「偶然でほんのささやかな出会いでも、それは前世からの深い縁で起こる」とあった。そして、この間のさまざまな出来事はどれも避けようのなかったことなのかもしれないとの思いに至り、妙に得心してしまった。気負っていたことにも気づくと、自分の世界が色を取り戻していくように感じた。とらえ方が変わると考え方も変化する。状況は変わらないのに、今は不思議とずいぶん気持ちが楽になっている。
私たちソーシャルワーカーは人と出会い、さまざまな価値や感情にふれる機会を多くもつ。また、その時間をクライエントや同僚などと共有し、尊重することを大切にしてきたが、時に理解に困難さを感じることや、自身の感情が揺さぶられてつらいこともあるかもしれない。その出会いが自分にとって意味のあるものだと思えたら、受け取り方もその先の言動も変わり、関係性に厚みや彩をもつように思えた。もちろんクライエントや同僚に限らず、「私」にも通じることなのだろう。
こんな時期だからこそ、そして人とのかかわりを業とするものだからこそ、出会いや縁をより大切にしたいと思う。それがささやかなものであったとしても、これまでに出会ってきた人たちや、これから出会う人たちとの絆を想う気持ちを持ち続けたい。そしてその縁が、人々のこころの助けにつながることを願う。
［特集］価値と理念を具現化する精神保健福祉士業務指針；ソーシャルワーク実践を可視化する特集にあたって精神保健福祉士とは何者であるのか、確かなソーシャルワーク実践が展開できているのかを自問している読者は多いことと思う。無資格者から資格者へ転じても、私たちは常に不完全で二面性に揺れている専門職ではないだろうか。「精神保健福祉士」として制度に取り込まれ、機械的画一性により安定をもたらす枠組みや所属機関のシステムに従属してしまいがちである現実と、所属組織の職務を超えたミッションをもつ専門職としての自律とのはざまで悩み揺れる日々がある。 本協会の『精神保健福祉士業務指針 第3版』の中では、精神保健福祉士の業務の定義を「精神保健医療福祉にかかわる諸問題に対して、ソーシャルワークの目的を達成するために、適切かつ有効な方法を用いてはたらきかける、精神保健福祉士の具体的行為・表現内容」であると整理している。そう、つまりは「自分が精神保健福祉士たり得ているのか」を自己点検し、ソーシャルワーカーとしての本質に迫るための方向性を示す羅針盤の役割を果たすのが業務指針なのである。 本特集をお読みいただければ、業務指針とは行動マニュアルではないことや、実践を言語化して示すという「指針としての限界」に挑みながら、実践現場や養成現場で活用され続けることで指針の内容も繰り返し検証が可能となることなど、私たちの価値や専門性を追求し発展させていく循環の構図がご理解いただけるであろう。 もっとも恐ろしいのは自分の実務が形骸化していても気づくことすらできないことである。だからこそ「精神保健福祉士の倫理綱領」と並んで業務指針は大事なことと理解はされている。しかしその名称が与える印象からなのか、指針の活用について敷居の高さを感じる諸氏が多いのも現状であろうと思う。そこで、架空事例を用いた本誌の記事などは、読者が具体的活用のイメージを広げることを大いに助けてくれるに違いない。 ぜひとも『精神保健福祉士業務指針 第3版』を手元にご用意いただき本特集の奥行きを味わっていただきたい。「業務指針を活用してみるのは面白そうだ」と、読者の好奇心を刺激できたなら幸甚である。 執筆者 洗 成子 |