機関誌「精神保健福祉」

通巻121号 Vol.51 No.2(2020年4月25日発行)


目次

[巻頭言]
研鑽を積む/知名 純子

[巻頭言] 研鑽を積む/知名 純子

[特集]
日本で生活する外国人のメンタルヘルスとソーシャルワーク

[私たちの体験]
・台風15号で罹災した外国人家族の支援/赤堀久理子
・外国人母子家庭の事例/一瀬 真澄
・外国籍の方を支援したときに考えたこと/神田 知正
・滞日外国人の家庭と子どもの支援/金杉 泰子
・外国人への先入観を認識したとき/伊藤 玲那
・救急急性期病棟における在住外国人支援/吉川  輝
・生活を支えるということ/加藤 雅江
・外国人留学生とその周りの日本人学生のメンタルヘルス/名城 健二
・外国人支援の少なさ そこから考えること/石黒  亨
・ひとはみんないっしょ/梁田 英麿

[総論]
・移住者とメンタルヘルス;異文化社会に滞在する外国人/木村真理子

[各論]
・精神医療としての多文化/鵜川  晃
・滞日外国人支援の現状と課題;ソーシャルワーカーの視点から/原口美佐代
・日本に居住し外国にルーツをもつ人々への支援とソーシャルワークの可能性;群馬県東毛地域の日系人コミュニティの現状から/三品 竜浩

[実践報告]
・外国人支援を通して日々の実践を振り返る;誰もが安心して暮らせる社会の実現のために/櫻井 早苗
・浜松市における在住外国人メンタルヘルス相談等事業の実践報告/池田 千穂
・ベトナム難民支援の実際/林  次郎
・多文化精神科クリニックでの実践/篠原 慶朗
・久里浜少年院における外国人少年の社会復帰支援/坂田 恵美

[連載]
・つくる・つなぐ・ひらく 第8回/「援助者へのプロセス、援助者としてのパッション」 関 茂樹
・託すことば、預かることば 第6回/「佐々木敏明(その2)」 渡辺由美子・鈴木 篤史・大泉 圭亮
・声 第6回「無表情」/渡邊洋次郎
・BOOKガイド/西澤 利朗・古屋 龍太
・わたし×精神保健福祉士 第7回 「つながりの中で、はたらく」/望月 明広
・メンタルヘルス見聞録 第6回/「障害分野における精神障害者の周辺化の課題;アジアの開発途上国における実践現場から」/東田 全央
・情報クリップ
 「第13回吃音世界大会に参加して〜Embrace Your Stutter〜」/斉藤(丸岡)圭祐
 「リカバリー全国フォーラム2019報告」/松田 裕児
 「日本アルコール関連問題ソーシャルワーカー協会第34回全国研究大会に参加して」/田邊 岬
 「日本精神障害者リハビリテーション学会 第27回大阪大会;笑てんかリハビリテーション―たくさんの笑顔を咲かせるために―」/村岡はなこ
 「埼玉県精神保健福祉士協会の一般社団法人化について」/濱谷 翼

・協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2020年度開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
・投稿要項


巻頭言

研鑽を積む

まるいクリニック 知名 純子

 先日、スクーリングの講義を終えた後、受講生から「理論を実践と結びつけての説明がわかりやすかった」と感想をいただいた。「テキストで理論を勉強しても、実際に現場でどう応用できるのかイメージできずにいた」のだそうだ。講義する機会をいただくたびに、現場で働く者として、理論と実践をつなぐ役割を担えたらと思ってきた私にとっては何よりうれしい評価であった。

 私は介護福祉を入口にソーシャルワークの学びを重ねてきた。当時は介護福祉士・社会福祉士が資格化されて間がなく、実習先の職員のほとんどは資格をもっていなかったので、いわゆる“現場の叩き上げ”の介護士から「仕事は現場で学ぶものではないの?」「授業で何を教わっているの?」と興味深げに尋ねられた。授業?教科書?と不思議そうにするベテラン介護士は、しかしながら舌を巻くほどテキパキと業務をこなし、クライエントのニーズと個別性を瞬時に把握した見事な支援を展開していた。20年、30年の実践の蓄積によるノウハウを体感できる実習は楽しかったし、大先輩の「介護の本質は机の上では学べない」という指摘には説得力があった。

 しかし本当に、理論は学ばずとも、実践を重ねればそれでよいのだろうか。
 出来の悪い学生の私は、時に試験をクリアすることを目的と勘違いし、テキストの字面を丸暗記していたので、当然のことながら新米時代は失敗ばかり。自信をなくしては泣きべそをかき、先輩に愚痴を聴いてもらった。「援助職に向いていないのでは」と考えるほど追い詰められたときに、わらをもすがる思いでテキストを読み返すと、私の苦悩など自明の理とばかりに淡々と疑問は解き明かされていて驚いた。同様に、がむしゃらに業務に取り組んでいる最中、ふと学生時代の授業風景や黒板の文字が思い出されて、初めて理論の真意が身に染みてくるという体験を何度もした。

 理論とは、その道の先達の長年の実践に裏打ちされたエッセンスである。私たちが現役で働き続けられる時間には限りがある。経験を重ねても、ぶつかる壁はまだまだあって、頭を抱えることも少なくない。だからこそ理論を学び、自身を振り返ることが目指すべき理想の支援までの遠い道のりをショートカットしてくれるものと信じ、研鑽を重ね続けたいと思う。

[特集]日本で生活する外国人のメンタルヘルスとソーシャルワーク

特集にあたって

 法務省の統計によると、在留外国人の数は273万人を超え(2018年3月末)、外国人労働者数も約128万人と過去最高となっており、今後も外国人労働者の増加が見込まれている。多様な人々が安心して地域で暮らすために住まい、労働、医療、教育、災害時など、包括的な支援が求められており、日本社会福祉士会等でも、滞日外国人支援とソーシャルワークに関する問題提起がなされている。しかしながらメンタルヘルスに言及されているものは多くない。

 今回の特集を企画するにあたり、担当者で議論を重ねるなかで、自分たちの実践が内向きになっているかもしれないと気がつき、滞日外国人と呼ばれる人々の生活に思いを至らすことができているだろうかと自問した。そして、“外国人に対するソーシャルワーク”について、避け難い時代に来ていることを自覚していった。

 「多様性の尊重」はソーシャルワークの根幹であるが、昨今日本で生活する外国人が増えるなか、私たち精神保健福祉士は「地域の生活者」として、外国人を認識できているだろうか。そして外国人の“生活のしづらさ”に対して、どのように向き合うことができるのだろうか。自分たちの実践も振り返りながら特集を組んでいった。

 外国人支援の専門でなくとも、各地域で小さな実践が積み重ねられていることから、本特集ではいつもの構成を変更し、私たちに身近な「現場の体験」から出発している。そのうえで、外国人をはじめ、多様な人々と地域社会で共に暮らすために求められるジェネリックな知識・技術・価値を再確認し、多文化ソーシャルワークの実践のために必要な基本的知識、メンタルヘルス分野の固有の知識について、研究者の視点や現場での体験を通した視点など、さまざまな角度から見ていき、その実践のあり方について考える機会としたい。

 本特集が少しでも読者の明日からの支援に少し勇気と希望がもてる一助となればうれしい。精神保健福祉の現場で、精神保健福祉士がどのような体験をしているのか、協会にも声を届けていただければ幸いである。

執筆者 原田 郁大・原 敬・伊藤 千尋


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