機関誌「精神保健福祉」

通巻115号 Vol.49 No.4(2018年10月25日発行)


目次

[巻頭言]
日本沈没/中川 浩二

[特集]身体拘束と精神保健福祉士;当事者として向き合うことから

○身体拘束を知る
「隔離」と「身体拘束」の問題を考え行動するために/長谷川利夫
当事者の声を聴く;身体拘束をされるという経験@ 隔離・拘束の実際とそれにかかわる考察;当事者の立場から/関口 明彦
当事者の声を聴く;身体拘束をされるという経験A 精神科病院における身体拘束について;大阪精神医療人権センターに届く入院中の方の声から/山本 深雪・上坂紗絵子
医療者の声を聴く;身体拘束をするという経験@ チーム医療と身体拘束/村杉 謙次
医療者の声を聴く;身体拘束をするという経験A 身体拘束、その意識と判断/中谷  将
身体拘束と法/鹿島 裕輔

○身体拘束と精神保健福祉士
救急医療と身体拘束/長島 美奈
日本精神保健福祉士協会の取り組み/木太 直人
当院における行動制限最小化委員会の実践/徳永 浩子
精神医療審査会での権利擁護と精神保健福祉士 篠原由利子

○身体拘束と精神保健福祉士;私たち17人の体験
私たち17人の体験

[連載]
つくる・つなぐ・ ひらく 第4回/「インターネット相談活動の実践; ICTを用いたアウトリーチ活動とソーシャルアクション」 /伊藤 次郎
託すことば、預かることば 第3回/「柏木 昭(その3)」 柏木 昭/インタビュアー・三品 竜浩・大泉 圭亮・渡部 裕一
声 第3回/「私たち抜きに私たちのことを決めないで;増川ねてるの場合 Part 3」 /増川ねてる
わたし×精神保健福祉士 第3回/「出会う人々をエンパワメントする精神保健福祉士でありたい」 /坂入 竜治
学会誌投稿論文等査読小委員会連載企画 実践の見える化 第3回/ 「研究テーマと論文の構成」 /岩本 操
メンタルヘルス見聞録 第3回/「イタリア・ボローニャ見聞録」 /三品 竜浩
情報クリップ/「障害年金と精神保健福祉士」/青木 聖久
情報クリップ/「NPO法人全国精神障害者地域生活支援協議会第22回全国大会『あみ道(ロード);ひとをつなぐ 地域をつなぐ 未来へつなぐ』に関する報告」/義永 瑞季
情報クリップ/「第4回チイクラフォーラム&全国ネット巡回フォーラム開催!」/中野 千世
情報クリップ/「精神障がい者フットサル、世界2連覇への挑戦;昔、ひきこもり。今、日本代表」/鈴木 篤史
BOOKガイド/田村 洋平・高橋 陽介

協会の動き/坪松 真吾
・協会の行事予定
・2018年度開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
『精神保健福祉』総目次/通巻112〜115号
・投稿要項


巻頭言

日本沈没

業務執行理事・災害対策担当理事 中川 浩二

 映画「日本沈没」は、小松左京氏原作の同名小説を1973(昭和48)年に映画化したものである。そのタイトルには、子供心に強烈なインパクトを得た。まだ、自分で観たい映画が観られる歳でもなく、何度か親にねだってはみたが、受け入れてもらえなかったのだろうと思う。それが証拠に翌年にテレビドラマ化されたときには、毎週欠かさず観ていた憶えがある。実際に映画を観たのは、遙か後の大学時代のことである。2006(平成18)年に草g剛主演でリメイクされたが、これにはまったく興味が湧かなかった。

 映画は、各地で巨大地震が相次ぎ、火山はあちこちで噴火を始める。海外に脱出しようとする人がいる一方で、あえて国内にとどまり日本列島と運命を共にする道を選ぶ人もある。四国を皮切りに次々と列島は海中に沈み、北関東が最後の大爆発を起こして日本列島は完全に消滅するというストーリーである。

 ここ数年の日本はまさに日本沈没を想起させる。地震、津波に火山の噴火、豪雪、豪雨に洪水、竜巻、台風に高潮と自然災害が繰り返されている。それを誘因とする原発の問題や土砂崩れ。この夏の異常気象もその一つと考える。

 私たちは、もっぱら人とかかわることが仕事である。それゆえ、ひとたび災害に遭遇すれば、悲しい思いにさらされることも多い。でも、人とかかわる仕事だからこそ、人に救われることも多いのではないだろうか。もしも、あなたが災害に遭い、幸いにして無事でいられたときには「私は、大丈夫」と仲間に伝えてほしい。それを待っている人たちがきっといるのだから。

 今、この国の憲法が戦力をもたないと謳っていることに対し、国外からの攻撃に備え軍隊をもつよう憲法改正を求める意見がある。しかし、日本は他国からの攻撃よりも自然災害に見舞われる可能性のほうがはるかに高い国なのだ。私たちが求めているこの国のより備えるべきことや急ぐべき課題は、地震や津波への対策であり、もはや安全とはいえない原発依存からの脱却ではないのだろうか。


特集 身体拘束と精神保健福祉士;当事者として向き合うことから

 近年、身体拘束をめぐる報道が続いている。一つの報道の先に、一人の人間の“生”(窪田:2013)があることを私たちは知っている。「身体拘束」という圧倒的な現実は、私たちが「なくすべき」と認識しながら、「なくしたいが…」と取り上げてこなかったテーマでもある。

 私たちはこの現実の前にどう立ち、何を発信すればよいのだろうか。本特集では、この「したいが…」の正体をもう一度見つめ直すことから始めたいと思う。

  「身体拘束」をテーマに取り上げるにあたって、企画担当者でたじろぎながら決めたことが2つある。

 1つ目は、「現場に身を置く人の声を届けたい」ということ。精神保健福祉士は、主に精神科救急や行動制限最小化委員会などで身体拘束の現場に関与している。しかし、私たちは身体拘束を医療従事者の問題と考え、傍観者にとどまっているかもしれないと自問した。そこで、本特集では身体拘束のある現場にいる当事者の一人として、語りにくい現実を語ってもらえるものにしたいと考えた。この「当事者」は、精神疾患を抱えているか否かではなく、身体拘束の現場にいる「当事者」のことである。「当事者」として、それぞれの立場で「身体拘束」という現状をどのように見つめているのかを言葉にしていただいた。

 2つ目は、「問いをつくる特集にしたい」ということ。厚生労働省の630調査によると、精神科病院における身体拘束が10年で約2倍に増加しているという。その背景として、認知症入院患者の増加や精神科救急病棟の増加など、さまざまな要因が指摘されている。しかし、こうした指摘だけでは、身体拘束の現実は変わらないことを精神保健福祉士は重く受け止めてもいるだろう。本特集は、あるべき姿と現実の隙間を埋めるようなものを目指したいと考えた。身体拘束の実態、現実を見つめ直すことで、精神保健福祉士が傍観者から脱却するための手がかりを拾い上げていきたい。

 本特集を通して、私たちがこの現実とどう向き合うか、明日からの実践に何かをかき立てるようなきっかけになることを願っている。今回、機関誌に言葉を残してくださった皆さまに心から感謝したい。

(伊藤 千尋・原 敬・原田 郁大)
文献 窪田暁子:福祉援助の臨床;共感する他者として,誠信書房,2013.


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