巻頭言 PSWとして「わかる」ということを考える/池谷 進
特集 精神障害者の老いについて
〔総説〕
精神障害者の老いに精神保健福祉士はどう向き合うか/金子 努
高齢精神障害者支援検討委員会の活動について/栄 セツコ
〔高齢精神障害者支援検討委員会の活動についての所感〕
「地域移行支援に対する『高齢入院精神障害者』と精神保健福祉士の認識の相違」の結果から/磯崎 朱里
558名の入院患者実態調査票からみえてきたこと・感じたこと/南 さやか
「高齢入院精神障害者」の地域移行、「想定される退院先」の結果から想うこと/野原 潤
「『高齢入院精神障害者』の生活能力と生活環境」からみえてきたもの/清水 美紀
〔実践報告〕
課題先進地における精神科医療機関の精神保健福祉士としての取組み/島田由起代
病院全体で取り組む地域移行支援(退院支援)/古明地さおり・山口多希代
高齢入院患者地域支援事業による取組み─「退院したくない」の先へ/山口 雅弘
新潟県および上越圏域における地域移行支援の取組み/丸山ひろみ
精神医療審査会事務局からみた法改正と高齢入院者─定期病状報告等から感じること/中島 宗幸
障害福祉サービスと介護保険サービス移行の狭間で/田中 文人
精神障害者の高齢化について─グループホームでの支援を通して考える/舟上 恵美
高齢を迎える精神障害のある人とその家族を支援する/佐藤 純
誌上スーパービジョン
退院支援におけるPSWのかかわりの視点とは ─退院への不安を抱き続けたA氏とのかかわりを振り返る
──スーパーバイザー/柏木 昭
トピックス
障害者総合支援法の見直し(障害者部会とりまとめ)について=有野 哲章
障害者差別解消法の施行について=岩崎 香
改正労働安全衛生法(ストレスチェック制度)について=佐藤 恵美
障害者権利条約第1回日本政府報告=木太 直人
情報ファイル
「日本子ども虐待防止学会第21回学術集会にいがた大会」に参加して=加藤 雅江
第31回中四国精神保健福祉士大会香川大会について=横畠 麻実
SST普及協会第20回学術集会in大阪に参加して=森山 拓也
日本精神障害者リハビリテーション学会第23回高知大会に参加して=堤 義和
「所得保障制度としての障害年金を考える学習会」に参加して=佐瀬 義史
日本産業精神保健学会精神保健福祉士部会第4回専門技術研修会(12月26日東京)に参加して=春日未歩子
リレーエッセイ/相談支援雑談=.新明 雅之
連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」 72
・協会の動き/坪松 真吾
・この 1冊/河野 康政・鶴 幸一郎
・投稿規定
・協会の行事予定
・想いをつなぐ.災害とソーシャルワーク(14)
・ 2016年開催精神保健福祉関連学会・研究会一覧
PSWとして「わかる」ということを考える
健康科学大学 池谷 進
LGBTの人たちのことが話題となっている。性的マイノリティと同義ではないらしいがよくわからない。いずれにしても以前であれば性別違和は本人の問題とされ、本人だけが苦しむことで社会的には解決(排除)されて済んでいたことかもしれない。わが家の長女はフランスやドイツ、フィンランド等々ヨーロッパに時々出かける。「来週から行ってくるから」といつも唐突である。逆に、日本にも外国人が多くやってきていて身近にいる。日本のマナーや当たり前のルール(慣例など)がなかなか通じない人たちも少なくない。そうすると、お互いに生活しづらい環境になっているかもしれない。
われわれの環境は大きく変化し、周囲にはさまざまな価値観や生き方をしている人たちがいる。だからかもしれないが、正直なところよくわからないことが多くなっている。
他者とのコミュニケーションが不得手で、講義や演習の授業の際にも理解が進まず、学習にも教員にも関心が薄いと思われる学生が少なからずいる。教員にはそういった学生に合わせた教育指導が求められる。順序立ててわかりやすく、イラストや図形なども使って個別指導も求められる。その後彼らは卒業し、ソーシャルワーカーとして就職していく。職場では彼らに合わせた仕事や人間関係が用意されているとは言い難い。そんな中で、クライエントの抱える多問題や多様性に合わせて柔軟に対応し、クライエントの自己決定を尊重する支援ができるのであろうか。
日本精神保健福祉士協会も構成員が1万人を超えた。さまざまな職域で、さまざまな業務に取り組んでいるPSWが現場で頑張っている。しかし、その中身が私にはだんだんわかりにくくなってきている。元来、私は物わかりが悪いので物事を理解するのに時間がかかる。わかったような振りをするのはやめようと心掛けているが、わからなければならないことが多くなってきているのではないだろうか。私だけの問題かもしれないが…。
特集 精神障害者の老いについて以前勤務していた精神科病院を10年ぶりに訪ねた時に、入院している人の中で、何人かの知り合いの患者さんから「元気でしたか?」と声をかけられた。当時、多くの医療従事者の仲間の皆さんと、必死な思いで長期に入院していた人の退院支援を行ってきたが、高齢化に伴って地域生活に疲れてしまい、病院に戻っている人が数名、臥床中であった。この人たちに対して、地域には暮らす場や生活支援システムはなかったのであろうかと、衝撃を受けるとともに無念と悲嘆の感情が私の心を渦巻いていた。 人は、地域社会で生活を続けることによって人生を全うする。福祉や医療の場が終(つい)の棲家になるということを、尋常ではないと考えるのが普通の感覚であるにもかかわらず、施設や病院で人生の最後を過ごしている人も多い。 国の失政によって、高齢となった精神障害者が精神科病院に長期入院を余儀なくされている現状は、わが国の精神医療福祉の政策的・歴史的な課題であるとともに、喫緊の実践的課題でもある。精神科病院や、そこで働く精神保健福祉士にとっても、看過できないことである。 地域に目を向けると、障害者総合支援法から介護保険制度への支援の継続の問題、住まいの確保の問題や身体合併症や終末期への対応など社会保障制度の欠陥が、高齢となった精神障害者の地域生活を困難にしている状況にある。また、精神科病院の社会的入院者の高齢化の問題、死亡退院者の数の多さ、閉鎖空間での入院生活などについても苦言を呈するとともに、社会的に表面化させて早急に国を挙げて解決する政治的課題であると考える。 そして、関与するすべての専門職が、もう一度、彼らが地域社会で暮らすことを取り戻そうとする意味について、真剣に考慮する必要があると思う。 (編集委員:荒田 寛) |