機関誌「精神保健福祉」

通巻100号 Vol.45 No.4(2014年12月25日発行)


目次

巻頭言  最後の一歩、最初の一歩/柏木 一惠

特集 自己決定をめぐる言説

〔総説〕
クライエント自己決定の原理/柏木  昭
「自己決定」とソーシャルワーク─障害学の視角から/岡部 耕典

〔各論〕
自己決定を支援する法制度の必要性/齋藤 敏靖
自己決定の尊重と本人保護の調和/安部 裕一
医療機関における自己決定とその支援/北森めぐみ

〔座談会〕
クライエントの自己決定の尊重をどのように伝えていくのか
岡本 秀行・小田 敏雄・三瓶 芙美・鈴木 篤史・中浜 良美 松本すみ子・美濃口和之・司会/荒田  寛

〔機関誌 100号記念企画〕
PSWは自己決定にどう向かい合ってきたか─初期の機関誌に見る PSWと自己決定/江間由紀夫

「機関誌閲覧ツアー」レポート/川口真知子

トピックス
長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会のとりまとめについて/中川 浩二
アルコール健康障害対策基本法の成立と推進について/佐古恵利子

研究ノート
スクールソーシャルワークにおけるメタ認知トレーニングを応用したグループワークに関する考察/狩野 俊介

情報ファイル
「日本デイケア学会第19回年次大会東京大会」報告/鈴木 慎治
「第7回全国精神保健 福祉家族大会〜みんなねっと石川大会〜」報告/木谷 昌平
日本精神障害者リハビリ テーション学会 第22回いわて大会/福井 康江
第57回日本病院・地域精神医学会総会に参加して/岡崎  茂

リレーエッセイ/パイオニアAさんと呼ばせて♪/徳永 達哉
連載/実践現場からのつぶやきコーナー「P子の部屋」
・協会の動き/坪松 真吾
・この 1冊/古屋 龍太・三品 竜浩
・投稿規定
・協会の行事予定/想いをつなぐ.災害とソーシャルワーク(10)
・ 2015年開催 精神保健福祉関連学会・研究会一覧/ 『精神保健福祉』総目次/通巻97〜100号


巻頭言

最後の一歩、最初の一歩

公益社団法人日本精神保健福祉士協会会長 柏木 一惠

 日本精神保健福祉士協会機関誌がついに100号目を発行するに至った。協会自体も設立50年、まさに協会にとって本年は節目の年であったのだと感無量である。
 私の所属する浅香山病院には機関誌第100号から保存されており、相談室の秘宝となっているが、当時は今とは比較にならない情報量のなさ、通信手段の限定の中で、機関誌の持つ意義は大変大きかったのではと思う。先達の優れた実践や密度の濃い議論は、精神科ソーシャルワークの知見が詰まっており、全国のソーシャルワーカーを導く灯であり、自分を見つめ直す鏡であり、希望や励ましを受ける場であったのだと思う。この機関誌がいつの時代もそのような存在であり続けることを祈る。
 私は機関誌が新装なった通巻40号(1999〔平成11〕年12月号)より機関誌編集委員となり、89号まで委員長や担当理事などさまざまな形で機関誌に関与してきた。この間総説、各論、実践報告などの拙稿を掲載していただき、誌上スーパービジョンのバイジーとしても登場した。ずいぶん人使いの荒い委員会だと思ったものである。しかし機関誌に掲載を乞われなければ、現場の多忙を理由に怠け者の私が実践をまとめる、原稿を書くということはなかったであろうから、少なくとも私の貴重な訓練の場であったことは間違いない。きっと多くの現場の精神保健福祉士が同じような経験をしていることだろう。課題を発見してまとめる、考え抜く、発信するという力は意識しなければ磨かれることはない。機関誌がその表現の場であることを望みたい。
 100という数字は終わりか、始まりかと考えていたら浮かんだ歌の一節―

「きょう校庭に印す最後の一歩は、新しい明日への それぞれの未来への最初の一歩さ 胸を張ってかかと強くけってゆくよ この場所から」
(最後の一歩 最初の一歩、作詞 桑原 永江)

 100号は一つの区切りとしての最後の一歩そして新しい明日への最初の一歩である。未来へ!

特集 自己決定をめぐる言説

 精神保健福祉士のみならず、すべてのソーシャルワーカーにとって「自己決定」は重要な意味を持つ言葉である。クライエントの自己決定を尊重するということは、ソーシャルワーク教育においても、実践の指針である倫理綱領においても特に強調されており、その重要性は自明のものとして理解されているといってよいだろう。
 しかしその一方で、実践場面においてクライエントの自己決定に向き合った時には、専門職としての判断に悩み、迷いや揺らぎを感じることが多いのも事実ではないだろうか。
 自己決定に対する安易な認識による支援は、専門職としての責任を欠いたものとなりかねない。また自己決定の主体となるクライエント自身の判断能力の問題や自己決定によって生じる不利益が予測される場合への対処など、自己決定の限界を意識せざるを得ない事態も起こり得る。バイステックの原則においても、自己決定を制限するものに関する指摘がなされているし、現代では権利擁護活動との関連も考慮に入れる必要があるだろう。
 そして精神保健福祉士が実践現場において出会う自己決定の問題には、クライエントによる決定そのものを指す「自己決定」と、クライエントの自己決定を促し、その結果に対してもクライエントと共に受けとめて、次の自己決定へとつないで行く「自己決定の支援」との2つの次元がある。この2つの次元に対する認識も私たちの間で微妙に揺れ動き続けている。
  本特集では、以上の視点に立ってあらためて自己決定について取り上げてみたい。本来自己決定とはどのようなものなのか、また自己決定が私たち精神保健福祉士の間でどのように認識され、語られてきたのか。研究者の視点や現場での実践を通した視点、精神保健福祉士同士の語り合いの中から見えてくるものなど、さまざまな角度から自己決定をとらえ直し、実践における意義について考える機会としたい。

△前のページへもどる